それはそれは晴れた午後のうららかな日。
お日様の匂いが空を舞う。
冬から暖かな春へと季節は移り変わり、
今ではまだ少し肌寒いとしても昼間には幾分暖かくなったと体で感じることが出来る。
そんな誰もが緩やかに眠くなってしまうような、まどろみの午後。
一人大遅刻をした生徒がいつものように悪びれもなく教室に入った瞬間・・・・固まった。
「おはよう」
にっこりと普段よりも優しく笑った、教壇にいる愛しい彼女の・・・・
担任の笑顔が・・・・・正直怖い。
ああ、一瞬戦慄を覚えた。
普段ならその笑顔を見るだけでとても心奮えるほど嬉しくて、
誰よりも抱きしめたくて愛おしくて仕方ないのに・・・・・今はただ怖い。
無性にこの場所から逃げ出したくなる。
酷く恐ろしくて仕方がなかった。
背中には止まらない冷や汗をかき、制服の中ではありえないほどの鳥肌が立っている。
というか、この普段から騒がしすぎる教室の空気からしてありえない。
生徒は皆きっちりと自分の席に着いて黙り込み、視線は常に斜め下の机へと向いていた。
こんなに静かな、それでいて重苦しい3Dは初めて見たかもしれない。
「随分と、重役出勤じゃないか・・・・・・なぁ、矢吹?」
彼女は笑顔のままだが目は笑っていなかった。
ついでに発する言葉の一つ一つにビリビリと、とんでもないプレッシャーを感じる。
(だ、伊達に大江戸一家の孫娘をやってるわけじゃねぇな・・・・・てか、何でこんなに怒ってるんだ)
ずっと止まらない冷や汗。
ひかない鳥肌。
いつもより笑顔なのにバックに般若を背負っている愛しい人。
ありえないこの状況に、何とかいつものメンバーに助けを求めようと視線を彷徨わせれば、
凄い勢いで視線をはずされた・・・・・・
・・・・ちょっと泣きたくなった。
ツッチーや日向やタケ。
そしてよりにもよって同じく肩を並べる、竜まで・・・・・
「で、矢吹」
不意に彼女からの声がかかる。
相変らず彼女は恐ろしいほどの笑顔だ。
「担任のあたしに何の連絡もしないで、こんなに遅くに学校に来た理由を話しなさい」
はっきり言って彼女は怒ってる。
「心配したんだぞぉ」
茶目っ気いっぱいに言っているが目が完全に据わっている。
隼人が遅刻をした理由。
正直に言えば『寝坊』だ。
昨日はちょっと夜遊びしすぎて、
んで目覚しかけるのを忘れてそのまま寝入って起きたらお昼でした。というオチだ。
だが、正直に話せばどんな目に遭うかなんて分りきっていた。
よし。ここは仕方ない。
嘘でもついて難を逃れよう・・・・・・
「馬にはねられて遅刻しました」
「・・・・言うことはそれだけか?」
ズビシッ!!!!
その返答を聞いてプチッと切れた彼女の
愛の鞭という名のチョップが飛んできたのは言うまでもなかった。
***** End *****
「馬にはねられて遅刻しました」
「もっと、まともな嘘をつけ・・・・」
+++++後書き+++++
初お題。ちょっとドキドキ。
うん。こんななんとも無いような午後の日があってもいいような気がする。
ちなみに久美子さんが機嫌が悪いのは、時たまそういう日もあるということです。
H20.5.17