<マイペースな彼>
遥か1創作・・・・泰明×あかね


私の恋人は、とにかくマイペースな人なのだ。

まぁ、ね・・・。 遠い異世界からやってきて分からないことだらけのなかで生きてかなきゃいけないんだから、神経太くて自分を貫かなきゃやってられないってことは分かるんだけど・・・・。
でもそれにしても、彼のマイペースっぷりったらもう・・筋金入りなのである。



元旦の午前8時、待ち合わせの駅前に着いてみると、泰明さんは先についていて時計台の下で待っていた。
ただ立ってるだけでも、泰明さんは『凄まじく』目立つ。
チャコールグレーのセーターに黒いコートを無造作に羽織っただけの実に地味な身なりの泰明さんを、道行く人はみんな振り返って「釘付け」モードで眺めている。・・・・これもいつもの光景だった。

「・・・・あかね。」
私を見かけると泰明さんは嬉しそうな笑顔になった。
普通の人が見たら、笑顔には見えないかも知れないけど(「ガン飛ばしてるとしか見えない」by天真君)、でもこれって、ちゃんとした笑顔なのだ。
人間になったばかりの泰明さんにはまだイロイロとぎこちないところがあるんだけど、そんなところが私には却って愛しくってたまらない・・・・。

「ごめんね、お待たせ!・・・・・それじゃ行こっか、・・・遅くなると混んじゃうし・・・・・・。」
歩き出そうとしたところを、目の前にいきなり二人連れの人が立ちふさがった。


「ねぇ、お姉さん達・・・・。 ふたりだけ?俺たちとデートしない?」


瞬間・・・・・・・笑顔を浮かべていた泰明さんの眉がピクリと上がった。
「や・・・泰明さん・・・・」
慌てて押し留めようとする私の体を片手でさえぎって、泰明さんはぐいっと半歩踏み出した。



―――「死にたいか・・・・」



凍りつきそうな声が唇から漏れた。
斜めに見下ろすその目線は険悪そのもので、気の弱い人だったら目が合っただけで気絶しそうな迫力だった。
現に、睨まれた二人はイキナリ棹立ち状態になっていた。

「だ・・・駄目!・・・駄目だよ、泰明さん!」

私は今にも印を結びそうな泰明さんに、後ろからしがみついて慌てて止めた。
「止めて!ダメダメダメ!泰明さん!お正月なんだから!・・・お願いっ!!!!」


「うっ・・・うぁあああ〜!」
「ひぇ〜〜〜〜!」
私が泰明さんを引き止めている間に、二人組は飛ぶようなイキオイで走り去って行った。
その後姿を泰明さんは尚も凶悪極まりない視線で追い続けていた。


「・・・・・あの者達にはお前が私の連れだと見て分からぬのだろうか?」
腕組みをしたまま、憮然とした表情で泰明さんが言った。
いや・・・・・というか、あの人たち別に私を誘ってたわけじゃなくて、どちらかと言えばお目当ては泰明さんだったんだよ?・・・・と、果たして言っていいんだろうか?まずいんだろうか・・・・・?


「仕方がない。・・・あかね。」
「はい?・・・は?」
振り向いたとたんに、体がぐいと引き寄せられる。
あっという間に胸の中まで手繰り寄せられたかと思うと
「・・・・う、ぅ・・・ん・・・んんん・・・・・」
避ける隙も無く唇を奪われた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


振り向けば駅前にいる人たちは、みんな呆然として私たちを眺めている。

「・・・これで、分かったろう。」
当の本人は、唇を離すと"どうだ"といわんばかりの表情で胸を反らして辺りを見回した。


あああああ・・・・・・・・。


本気で思った。天真くんと蘭と詩紋君についてきてもらえば良かった。そうすれば良かった・・・・・・。
お正月くらい二人っきりになりたいなんて、そんな風に欲張った私が間違ってた・・・・。





初詣の列に並ぶなり、泰明さんは両腕で私をがっちりと抱え込んだ。
もうまるでバッチリ抱きかかえている状態だった。まるで密着だった。幾らなんでもこれはあまりにも恥ずかしい。
ああでも、それでもこの人ごみの中でキスされるよりはマシだ。私は黙って泰明さんのしたいようにさせていた。

「ごめんね、泰明さん人ごみが嫌いなのは分かってるんだけど・・・」
「別に構わない。お前が楽しければ私も心地よい。」
「はぁ。」
「お前が新年早々神社に参りたいというのが特に信心ではなく、沿道の露店を流したいとか、せっかく振袖を持っているのだから着て私に見せたいとか、単に正月気分を味わいたいだけとか、そういう本質から外れた理由だとしても、それは無意味なことではない。そのようなお前の欲求があからさまで邪気の無いところは私にはとても好ましく、愛らしく思える・・・・。」
「あの・・・泰明さん・・・そ、そういうことは、二人だけの時に・・・・。」
「二人だけ・・・・・?」
いきなり、妙なところに泰明さんが反応した。「・・・終わったら、部屋にくるか?」
「あ・・・え・・・あの・・・・・。」
「・・・・・・したい。」


――――来た!


この人ごみの中で、恥ずかしげも無く遠慮も無く、言ってくれた。泰明さんの声は低いけど良く響く。周りの視線がいきなりぐぐっと私たちに集中した。
「やっ・・泰明さん、それはその、この場所ではあの・・・・」
泰明さんはゆっくりと首を横に振った。
「ここでは無理だ。人が多い。だから私の部屋に来ればいい。」
「いや、そうじゃなくて、ここでそういう話は・・・・」
「一週間、お前を抱いて寝ていない。今日がとても待ち遠しかった。お前は嫌なのか?」
「い・・・いやっていうか、その・・・」
私は止むを得ず、下駄の足で思い切り泰明さんの靴を踏んだ。
「あかね・・・お前の足が私の足に乗っている。」

―――違う。乗せてるんじゃなくて、踏んでるんだって!

「その話は後でにしましょう、ね、ね。」
言いながら、立て続けに思いっきり下駄で足を踏み続けると、さすがに泰明さんも私のサインに気が付いたようで首を傾げたまま黙り込んだ。もっとも、何がまずかったのかはサッパリ分かっちゃいないんだろうけれど・・・・・。




本殿の入り口まで来ると、泰明さんの苛立ちはピークに達したようだった。神主さんの所作とか、内部の配置とか、祝詞のせりふとか一々気になって仕方ないらしい。
「違う。」「出鱈目だ」「あれでは無意味だ。」「理に適っていない。」
攻撃的な独り言がやたら増えてきた。再び周りの視線がイタイ・・・・。

「泰明さん・・・・ 流派が違うんだから・・・。時代も違うし・・・・ね?」
「分かっている。」
泰明さんは苦虫を噛み潰したような表情で頷いた。一応この世界でのことは納得がいかないまでも受け入れようとカレは彼なりに努力はしているらしいのだ。・・・・・・これでも。
「じゃあ、後で、あそこに寄ろう?それでいいよね?ね?」
「分かった。」
私の言葉に泰明さんはちょっぴり嬉しそうにうなずいた。



神社から10分くらい歩いたところに、実はもう一つ寂れた小さな神社がある。
泰明さんが見つけた場所だった。

訪れる人もない境内には雪が薄っすらと降り積もっている。
泰明さんが呪文を唱えながら地面に円を描くと、そこだけ雪が解けて乾いた地面が顔を出した。
泰明さんは抱えていた私をそっと乾いた土の上に降ろすと、ゆっくりと社殿へ向き直った。

コートを枝に掛けると、泰明さんは再び静かに両手で印を結んだ。 確かに全然違う。流れるような所作だった。

やっぱり、かっこいいな・・・・。
すらりとした隙の無いその身ごなしに、私は見とれてしまう。

しばらく印を結んだまま呪を唱えていたかと思うと、やがて泰明さんは静かに両手を下ろして私のところに歩み寄ってきた。



「これで良いだろう。・・・お前とその家族が今年一年息災に過ごせるように祓いをした。」
「泰明さん、自分は?お正月なのに、何かお願いとかないの?」
私の質問に、泰明さんは厳かに首を横に振った。
「陰陽師は私利私欲で術を使うことはできない。
・・・それに、春には私もお前の眷属となる。お前の余禄を受けて、私も今年は息災でいられるだろう」
「ふぅん。」
そうなんだ、と、口の中でつぶやきながら、私はちょっぴり頬が熱くなるのを感じた。
そうだよね。春には結婚して、家族になるんだもんね。


「何をしている。早く乗れ。風邪を引くぞ。」
泰明さんのいつも声がして、私は夢から醒めたように顔を上げた。
見れば神社の脇の小道に見慣れた車が止まっている。

「乗れって・・・何でこんなところに車?泰明さん、電車で来たんじゃないの? 」
「式に回させた。 」澄ました無表情で泰明さんが頷いた。

・・・・何となく、魂胆が見えた。この車、絶対にまっすぐ泰明さんのマンションに向かうつもりだ。
私は一歩、後ずさりした。

「ほ・・本当に駄目だよ。これ自分で着たんじゃないんだから、自分じゃ着られないんだからね?家に帰れなくなっちゃうよ。」
「問題ない。 脱がせるときにちゃんと順番を覚えておく。」
ものすごく見も蓋もない言い方をされて、私はいっそううろたえた。
「そういう問題じゃなくて!!順番覚えてても着られないんだってば!」
「問題ない。お前が着られないなら式に着させればいい。」
「どうやって?平安時代の式さんに現代の着付けなんか分かるの? 」
「ならば、お前の姿を式に写して先に帰らせればいい。お前は家にあるものを着て帰れ。・・・・いっそ、泊まれ。」


―――全部、バリバリに、私利私欲じゃん!


そうこう言い争ううちに、泰明さんはさっさと私を助手席に押し込むと車を走らせ始めた。
「泰明さん、制限速度超えてるっ! 」
「問題ない。検問は避けている。 」
―――いや、・・・そういう問題じゃない!
「片手運転はダメだってば!どっ・・・どこ触ってるんですか?」
「問題ない。右手と目は運転に使っている。左手は空いている。お前をもっとよく見たいが、それは部屋についてからにする。」
「待ってっ!帯締め解いちゃダメっ!本当に駄目!本当に結べないんだから!」
「お前が面倒なことばかり言うからだ。」


―――実力行使か!!!?


「 諦めろ。今日は泊まれ。」

泰明さんは振り返ると、普段は見せないような分かりやすい笑顔で微笑んだ。



「・・・・・・・・・・・・・・・。」



私の彼のマイペースなことと言ったら・・・・・誰にも彼を止めることなんかできない。


だけど逆らえない・・・・・。
そんな彼が、私には愛しくてならないのである。



-Fin-


どうも、夕暮です。
今回は「白色月亮」のロンアル様より『遥か1』の泰明×あかねを頂いてまいりました。
ここの小説はすっごく良いです!!感動しますよ!!


追記・ロンアル様の「白色月亮」はリンクよりトベマス。