はら はら はら



はら はら 舞う



はら はら はら はら―――――





それはまるで幻想的な世界のように





この世のものとは思えなくなるような

あたり一面の桃色の桜吹雪



どこまでも暖かい陽だまりの中

優しい陽だまりに包まれた桜の中であなたは優しく微笑む



それは今も昔も変わらず

あなたはただ優しく微笑む

そして、俺の(私の)心を捕らえて放しはしない。









+++++ 桜 +++++









「九郎さん?」


望美が俺を見て不思議そうに頭を傾けた。


「・・・・どうした?」


俺は桜を見るために見上げていた視線を望美に移した。


「今、今・・・・すっごくいい顔してました。あ、カメラもってくればよかったなぁ」

望美は一人興奮している様子だった。


「・・・・なにいってるんだ?」


「だ、か、ら、九郎さんがとっても幸せそうだったんです!」


望美は人差し指を立てて九郎に迫った。


九郎は望美のその言動に驚いて、一瞬固まって


「そ、そんなこと言っても何もないぞ・・・・」


赤くなりながら視線を移し、返事を返した。





「ふふっ」





「こ、今度は急に笑ってどうした」


「別に何にもなくていいですよ!九郎さんがいてくれるだけで私は幸せなんですから」


「・・・・・っ!!」





望美は幸せそうに頬を染めて笑っていた。

九郎は望美の言葉にまた赤くなった。





「でも今日は天気も良いし、お花見に来て本当によかったですね」


「・・・・・ああ」





九郎は赤くなったまま、まだ照れているのかそっけなく返事を返した。

望美はその様子がわかっているのか、クスッと笑って桜を見上げた。





「桜・・・・きれいですね」


「ああ・・・・本当にな」


「・・・・そう言えば、前は京で夜桜も見ましたよね」


「ああ、あそこの夜桜も綺麗だったな」





九郎はふと自分が長年存在していた世界を思い起こした。





望美のいる平和な世界と違っていつも戦っていた時代。

人を殺めなければ生きていく事すら間々ならなかった。

今と違って平和な時はあまりにも短く、幸せだと感じる事はほとんどなかった。





唯一、鎌倉殿である兄上の役に立つ事が俺の存在理由であり全てだった。





だが兄上は俺を切り捨てた。

兄上にとって、鎌倉殿にとって俺は限りなく邪魔な存在になっていた。

俺はその事に気付かないフリを続けて、鎌倉殿に必要とされていると願って戦い続けた。





でも俺は今、その全てを置き去りにして望美と共にいるこの世界を選んだ。

戦うことしか知らなかった俺が、初めて選んだ自分の道。








「・・・・・・・・・九郎さん」


「・・・・・ん?どしたんだ」


「・・・本当に私の世界に来て良かったんですか?」


「?・・・・いきなりどうしたんだ?」


「・・・・やっぱり、なんでもないです」


「・・・たくっ、なんでもない分けないだろ」


「いや、本当になんでもないです」


「なら、なんでもないのだったら、なおのこと言ってみろ」


「うっぅ・・・・」


「たく、お前はわかりやすいんだからな」


「・・・・わかりました。観念して言います。その代わり笑わないで下さいよ!!」


「わかった」


「本当ですよ!!」


「ああ」


「・・・えっとですね、桜見てたらあっちの世界を懐かしく思ったりしないのかなぁって思ったんです。
だからその・・・・それだけです。もう、なんにもないです」








望美はプイッと顔を俺から背けて、これ以上なにも言わなかった。

九郎はそんな望美の様子を見ていた。








クックックック・・・・・








どこからか笑い声が聞こえた。





「わ、笑わないでって言ったじゃないですか!!」


「そんなことを思ったのか?」


「そんなことって!!だって・・・・・うわっ!!」





その瞬間、一際強い風が吹いて桜の花弁が空に盛大に舞った。

そして九郎は望美を腕の中へと引き寄せた。





「く、九郎さん!!」


「・・・・馬鹿だなぁ」


「な!!」


「確かに懐かしくは思うさ・・・・生まれた時からあっちにいたからな」


「ほら、やっぱり!!・・・・・・・やっぱり、後悔してますか・・・・」





望美の声は段々と小さくなっていった。








「でもな」








九郎は望美の不安を吹き飛ばすように言葉を続けた。








「後悔なんてしていない。むしろ今の毎日が幸せすぎるぐらいだ。

あまりにも幸せすぎて、これが夢じゃないかって思うときすらある。

俺の居場所はもうあの世界にはどこにもなかった。そんな俺をお前は選んでくれた。

何も持たない俺を・・・・俺はお前と生きることを望んだ、お前と生きることを選んだ。」








九郎は言葉を続けた。

望美はその様子をずっと見ていた。








「お前が隣りに居ないと意味がないんだ、桜は確かに綺麗だ。

でもそこにお前が居ないと、どこの桜だってこんなに心惹かれることなんてない。

お前がいるだけで、桜だって世界だってこんなに愛しく思える。

だからこれからも俺の側にいてくれ・・・・・望美」








望美と生きる―――――








それが俺の望んだただ一つの道。


後悔など一片もしていない。


はじめて源氏の為、鎌倉殿の為ではなく、自分から望んだ唯一の道。


俺はお前の側に居るだけで充分過ぎるほど幸せだ。


これから俺たちは、もっと幸せになる為に生きるんだ。





「っ・・・・・・九郎・・・さん」





望美は九郎の名を呼ぶとそのまま九郎に体を預けた。

九郎は望美の様子を見て優しく笑った。








そして静かに二人の時は流れる。








二人に降りそそぐ止むことのない桜の花弁。

それはまるで桜のベールのように、二人を永久に祝福するように、





二人を優しく包み込む―――――





望美は笑む。

九郎は笑む。





二人は互いに心囚われる。





それはこれからも変わることなく、ずっとずっと―――――





相手を想い

相手を愛し

相手の幸せを心から願う








『どうかこの人がずっと幸せでありますように・・・・・・』と








その想い

その願いは

途切れることなく永久に―――――














――――――――― End














>>>>>あとがき
お久しぶりです。
こっちの更新はかなり久しぶりです。
ついでに小説の内容と時期が珍しくあってます。
私が作ると、大体は季節が全然合ってませんから・・・・lllorz

そして・・・初ですよ。
ちゃんとこの部屋で矢印とか独白じゃなく、CP小説。

それも、九郎。

九郎も初書きですよ。

h19.3.25


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