俺は彼女が差し出してくれた手を掴もうと手を伸ばした。
しかしそれでも、その手を掴むことに俺は少し躊躇した。
もし、彼女に裏切られたら・・・・??
それを思うと手を掴めなかった。
だが俺が躊躇した時に彼女は俺の手を掴んだ。
まるで彼女は俺のことを裏切らないと言うように、
俺が不安に思うことがないように、
――――― 一緒に行こう ―――――
その言葉が体を支配する。
――――― コノ人ハ大丈夫、裏切ラナイ ―――――
そして彼女に手を掴まれた時に体が軽くなった感じがした。
振り返ると自分の背中の翼が見えるようになっていた。
「な、行こう!」
そう言った彼女の背中にも綺麗な翼があった。
俺は彼女の手を掴み返した。
――― 俺は彼女を・・・・・信じた。
信じることに疲れていた俺は全てを諦めていた。
けれど出会って間もないけれど
彼女だけは信じられると、信じたいと思った。
今はまだこの意味も知らずに―――――
その瞬間、全てが光に包まれ混沌は消え去った。
その時に俺は彼女の顔を見た。
やっと彼女の顔が、光ではない本当の姿が見えた。
彼女は笑顔だった。
彼女の笑顔は綺麗であたたかかった。
『ああ、お前だったのか』
俺は溢れる気持ちにも気付かず、
彼女の額に触れるだけの優しい口付けを落とした。
彼女も俺の額に口付けた。
そして俺たちは互いの手を取り
混沌が晴れた澄み渡った大空へと
光へと羽ばたいた。
――― ああ、俺は彼女が・・・・・
「・・・でよ、あそこのラーメン美味かったよなぁ、
でもまぁ、うちのには負けるけど、なぁ慎?」
夢はそこで終わった。
クマの声で俺は目覚めた。
目覚めたそこはいつもと変わらない、ざわざわとうるさい教室だった。
「・・・・・・・・クマ・・・・か?」
「あ、ごめん慎。寝てたんだ?」
「別に・・・・」
目覚めた俺は夢の内容を覚えていなかった。
「・・・・なんか機嫌いい??」
「・・・・・・久しぶりに夢を見た」
「夢?」
「なんか、いい夢だった・・・・・」
「どんな?」
「忘れた・・・・・でも・・・」
「おい、お前ら!!!!!」
久美子は教室の扉を勢いよく開けた。
「何だよヤンクミ〜」
クマが応えた。
「今日は外で缶蹴りだ!!!!!」
「は?いきなり何言ってんだよ!!!」
「聞けクマ!!今日はいきなり教頭に捕まって、
朝から愚痴愚痴言われてストレス溜まってんだよ!!
だから今日は授業やめて皆で缶蹴りだ!!!!」
「お前のストレス発散に俺たち巻き込むな!!」
「・・・・なら、授業がいいのか??」
「っう・・・・・それは・・・・」
「ま、別にいいだろ?じゃー。皆行くぞ!!」
「へーへー・・・・」
「ほら、沢田も座ってないで外に行くぞ!!」
近づいてくる彼女の笑顔はまぶしかった。
無意識に胸が高鳴る。
何で胸が高鳴るのかはわからない。
久美子は慎の前までやって来て、慎の手を掴んだ。
その瞬間、何かが頭の中を過ぎった。
頭の中に浮かんだのは
―――――行こう!!
という言葉
しかし、それ以上はっきりと思い出さない。
いつもと違う感覚。
慎は手を掴まれた瞬間に心を奪われた気がした。
ただ掴まれた手を放したくなくて、
慎は何ともない顔をしながら繋がった手に少し力をこめた。
久美子は少し力がこめられた手に疑問を覚えたが特に気に止めなかった。
慎も何故自分がこんなことをしたのか、わかっていないようだった。
―――――放したくない。
その言葉が頭の中にあった。
握りかえした手
あたたかな笑顔
ふとした彼女の仕草
その全てが俺を捕らえて放さない―――――
「行くぞ!沢田!!」
自分に向けられている笑顔。
その瞬間だけは彼女は自分だけのもの ―――
だが、何故自分がこんなことを思うのかわからない。
ただ、彼女はあたたかくて俺は彼女に救われた。
彼女の周りは光が集まる
故に内に少なからず闇を抱えたものは彼女に惹かれる
居心地の良い場所
掛け替えの無い唯一の楽園
それはまるで光さす場所にも似ていた
END
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++後書++
今回もまた夢オチです。
はっきり言って何気に夢オチがシリーズ化してます。<笑>
まだだしてない小説もイクツカありますんで
のんびり待ってください。
H18.7.21
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