「あっと、そんじゃ皆さん。
性感帯を知ったからって・・・・天国に変なことしないで下さいね」
その言葉を聞いた瞬間俺たちは、
それぞれ教室に向う足を止めて沢松を見やった。
沢松は相変わらず、にこやかに笑ったままだった。
「知らないとでも思ってるんですか、
俺はあいつの1番近いところにいる鬼ダチですよ」
「・・・・沢松君はいつから知っていらしたのですか?」
いたって冷静に振舞うように、辰羅川がはじめに声をかけた。
「・・・・そりゃ愚問です。
多分あんたらが自分の気持ちにまだ気づいていない時からっすかねぇ」
「な、何でわかったんすか??」
「・・・そりゃ、見ればだいたいは一発。
今まであいつの隣にいたのはダテじゃないですからね」
「・・・・・・・・」
俺はその言葉を聞いた瞬間また胸がジリジリと痛んだ。
「もし、天国に無理強いしたら・・・・
俺はどんな手を使ってでも報復は10倍以上で返しますから、
それだけは、よく覚えといて下さい」
「で、でも、まだ決まったわけじゃ・・・・」
「・・・あんたらは知らないだろ?あいつの過去を・・・・・」
その瞬間、沢松の声のトーンが何ランクか下がった。
沢松の急な変化に、顔を窺い見れば
顔は笑っているのに目は全く笑っていなかった。
その表情、眼には伺い知れない何かが宿っていた。
胸が――――焼ける。
「過去に・・・・・何か?」
「・・・・・・・・・・」
「どうしたのさ、なにかあったの??」
「あいつに手を出そうとした奴が何人かいたんだよ・・・・・それも無理やり」
「「え!!」」
子津と兎丸が一緒に驚いた。
「でも大丈夫だった。散々一悶着あったけどな」
「・・・・・・・・・・・・」
ア・・ツ・・・・イ―――――
「・・・・・けど、これから先はどうなるかわからない。
当たり前だ。先のことなんて誰にも分からないからな、
だから俺は天国を守れる奴なら誰でもいい。
あいつが心から幸せなら俺は男でも女でも誰でもいい。
ただ・・・・天国を悲しませる奴は絶対に許さない。」
「・・・・・・・大切なんすね」
「ああ、あいつは俺にとって肉親よりも、ある意味一番近い奴なんだよ」
「それって・・・・どういうこと??」
「―――さぁな、自分で考えな。
ただ、お前らみたいに恋愛感情はねぇから安心しとけ。」
キーン、コーン、カーン、コーン×2
昼休み終了のチャイムがとうとう流れた。
「おっと、引き止めちまって悪いな。あ、犬飼・・・・お前、あいつに手ぇ出すなよ。
こん中で、お前が1番危険な感じがしたからな。・・・んじゃ、また明日な。」
そういうと、沢松はさっさと去っていった。
俺は胸がまだジリジリする。
皆もバラバラと帰っていったが、
犬飼は皆に見張られるようになったことは言うまでもない。
俺も兎丸と一緒に教室に帰っていったが
色んなことがあったせいか、教室の前である物がないことに気がついた。
「・・・・・(汗)」
「ん??どうしたのさ司馬君??」
兎丸は唯一俺が喋らなくても言葉を理解してくれる。
「えっと、ウォークマンを屋上に忘れたって〜・・・・あ、本当だ。
珍しいね。司馬君が大事なそれを忘れるなんてさ。
わかったよ、取りに行ってきなよ僕がうまくごまかしとくからさ。」
コクコクッ
俺は兎丸に頷き返して屋上まで走って戻った。
俺はこの頃、昼飯のときはウォークマンをしていない。
ただ彼の声をなんのフィルターも通さずに聞きたかったと言うのが理由だ。
だから昼飯のときは俺はウォークマンをはずしている。
いつもは忘れない。
そう、いつもは・・・・
でも、今日は猿野のあの声を聞いたせいで、
その声のことで頭がいっぱいになって忘れてしまった。
そして俺はもう一つミスをする。
すっかり忘れていた。
屋上には、今猿野が一人でいることを・・・・
「ん??あれ、司馬?」
「・・・・・(汗)」
「どうしたんだよ。もう授業始まってるだろ」
とりあえず俺は猿野の隣にあるウォークマンを指差した。
「ん?・・・・あぁ・・・お前これ取りに来たのか」
コクコク。
俺は頷く。
猿野は何かを少し考えると満面の笑みで俺を呼んだ。
「なぁ、司馬・・・・これ渡してやるからここまで来い。」
俺は頷いて猿野の側まで行った。
「司馬、座れ」
授業はもう始まっているが、
自分の好きな人に満面の笑みで、こんなことを言われたら拒否できない。
俺は躊躇わず、頷いて座った。
そしたら俺の足に猿野がいきなり頭を乗せてきた。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「やっぱ枕がないとなぁ。」
嬉しそうに俺の足に頭をうずめて俺を見上げる。
案の定、下から上を見上げる状態になるわけで、上目づかいになっている。
俺は一気に頭に血が上るような感覚がした。
「ほら、ウォークマン。そんかわし、司馬はお礼として俺の枕になれ。」
つまり俺も授業をサボれと遠まわしに言って来た。
俺は仕方がないと思いつつも頷いた。
好きな人の命令に俺は逆らう気も起きないのだから。
しばらくして猿野から規則正しい寝息が聞こえてきた。
俺はその様子をしばらく見ていた。
こんなに近くで猿野を見るのは初めてだったように思う。
顔を窺い見れば気持ち良さそうに意識を手放している。
肌をそれとなく見て指の腹で密やかに触れれば、
元々運動部だった奴らに比べれば肌は大分白く、
滑らかで触り心地が良かった。
猿野の頭を軽く撫でてみれば、髪は猫っ毛のようで触り心地が良い。
まつ毛も長い。
桜色の唇が可愛らしい。
ただ・・・・・・少し寂しい。
いつもの強い瞳が今は薄い瞼に隠れている。
でも、相変わらず綺麗だとも思った。
俺は猿野の頭を軽く撫でながら、ただなんとなく、
よく口ずさむ洋楽を小さな声で唄っていた。
だが、しばらくすると俺も眠くなってきた。
空は快晴。
気温は肌寒くなく温かい。
こんな中で寝るなというのが難しい。
ようやっと意識を手放そうとしたその瞬間、猿野が話し掛けてきた。
「司馬・・・・もう少し唄って、お前の声聞きたい。」
いきなり掛けられた声に俺はビックリした。
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>>>>>あとがき
お久しぶりです。
ヒサビサに作品展示。
ああ、もっと頑張ろう。
H18.8.16
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