傷付けた理由はそう、簡単だ。
ただ面白くなかっただけ・・・・
いつも体裁を気にする表面ばかりの大人、
中身なんて必要ないと言われているみたいだった・・・・
救いを求めても、肝心な時はいつも裏切られて傷つけられた。
だから、俺は大人を信じることを諦めた。
だから、あいつも他の大人たちと同じだと思った。
今思えば、俺はセンセイという職業を持つあいつに
今まで傷つけられた仕返しをしたかったのかもしれない。
俺に学校に来るようにあいつが言った。
そして俺はあいつを傷つけるために、助けを求めるふりをして裏切った。
キズツケタ・・・・
キズツケタ・・・・
その時、あいつは信じられないという目で俺を見た。
俺はその目を見なかった。
これでわかっただろう俺はお前を傷つける。
傷ついたあいつは俺に金を置いて力なく店から出て行った。
あいつの後姿を見ていると、余計に胸がざわついて痛かった。
でも俺はその時、その気持ちに、理由に気付かなかった。
否、気付こうとしていなかった。
ただ小さな棘が胸に刺さるような鈍い痛みを伴っていた。
その後、
俺があいつについた嘘であいつがどんなことをしたのかを知った。
また余計に胸が痛く苦しくなった。
・・・・・・・何でそっとしといてくれないんだよ
もう諦めたのに、諦めてたのに、なんで今更お前みたいな先公が・・・・・・・・
何故胸が痛いのかその時はわからなかった。
ただ酷い罪悪感とあいつから騙し取った30万だけが俺の手元に残った。
次の日、俺はあいつに金を返した。
少し使ってしまっていたが、俺は全額返すと言った。
ただの自己満足。
それだけのために・・・・
俺はあいつと目を合わせた。
あいつは驚いて俺を見ていた。
あいつの目は少し腫れていた。
ジリッ・・・
また・・・・胸が痛んだ。
あいつに金を返した後、
きっとあいつが俺を信じることはもうないと、そんなことを漠然と思った。
澄んだ瞳を俺に向けることはきっと無い、と・・・・・
俺はそれ相応の事をしたのだから・・・・・
そんなことを思うと何故かまた胸が締め付けるように苦しくなった。
そして、ただ悲しかった。
もう、俺に向けられることのない強い視線。
もう、俺に向けられることのない優しい視線。
ズキッ・・・・・
無性に胸が痛む・・・・
全てが幻のように消えた・・・・・そう思った。
だが、あいつが話し掛けてきた。
澄んだ目を、強い眼差しを俺に向けて変わることなく笑っていた。
トクン・・・・・・
その瞬間なぜか胸の痛みが消えた。
そして新しい甘い痛みを俺に植え付けた。
あいつのおかげで俺は変われたのかもしれない。
喧嘩が強くて、
熱いやつで、
精神的に妙に子供で、
そのくせ物凄く世話焼きで、
でも良い事は良い、悪い事は悪いとはっきり言える、
強いという本当の意味を知っている大人。
あいつがいなきゃ、今も俺は学校に来てなかった。
それに隼人たちと和解することもなかった・・・・
だから、あいつにはただ感謝している。
そして俺は自覚した。
俺はあいつに惚れている。
いつの間にか・・・・・
いや、俺はあいつを最初から先公と見ていなかった。
ずっと、特別な感情であいつを見ていた。
―― 触れたい
―――― 抱きしめたい
―――――――― キスしたい
―――――――――――――――― 奪いたい・・・・・
気が付けばそんなことばかりを思っている自分に苦笑した。
たぶん出会った時既に俺はあいつの瞳に囚われていた。
一目惚れと言ったほうが正しいだろう。
何であんなダサい女に、と思うと苦笑するしかないが、
それでも俺は、あいつだけがいい。
あいつしか欲しくない。
いつの日か、あの瞳にずっと俺を映していて欲しいと、
そんな子供じみたことを思ってしまう。
独占欲は強くなるばかり・・・・・
ああ、どうすれば手に入れられるんだろう・・・・
残酷な人。
こんなに焦がれているのに、ドウシテ気付いてくれないのだろう。
「・り・・お・・・・・ぎり・・・・おだぎ・・・・・・小田切!!」
久美子は竜を呼んだ。
「・・・・・・なに」
竜はとばしていた意識を久美子に向けた。
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あとがき↓
次で終わりです。もう少しお付合いしてください。
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